音 | 聴覚にまつわる音のお話

プロとバイノーラルと高音質音楽配信

先日、柔道のヤワラちゃんこと谷亮子選手が選手生活の引退を発表しました。
ニュースで金メダルを取った頃の映像が流れましたが、相手の襟を掴んだ時点で既に投げに入っているという、物凄い技の切れを見せていました。恐らく、相手の動きに応じて反射的に技が出るのだと思いますが、改めて彼女の柔道家としての凄さを認識させられました。

柔道場

その映像を見て思い出したのが、鳥人間コンテスト名誉会長の東昭先生(東大名誉教授)に言われた「どの世界でもプロって言うのは凄いもんだよ」という言葉でした。
スキーのジャンプでオリンピックに出場した選手が風洞実験に協力してくれたときに、物凄い風圧の中でもピタッと飛行姿勢を決めるお話をして下さり、一流選手の凄さ、そしてどの分野でもプロは凄い何かを持っている、とお話されました。

なぜそんな話から始まるのかと言うと、Island Soundというサイトでプロの音楽家が録音したバイノーラルの音源を聴いたからなのでした。
当サイトでもバイノーラル録音による動画を掲載しています。少しでもいい音が録れるよう頑張っていますが、同じBME-200というマイクを使いながらも、プロの録音と大きな差があるのを実感させられました。

Island Sound
(Island Sound 自然音をバイノーラル録音し、高音質音楽配信しています。)

勿論、録音機材が違いますし、提供手段も異なります。しかし、それ以上に経験とノウハウの差が大きい。
それが、プロと一般の差なのだと改めて実感した次第です。


さて、このIsland Soundというサイトを知ったのは、今週の始め(11/8)にAV Watchというニュースサイトの連載でBME-200が話題に上がったからでした。
記事はこちらをご覧下さい。→ 藤本健のDigital Audio Laboratory 第439回

この記事の主題はバイノーラルではなく、高音質音楽配信を個人レベルで実現した事にスポットが当てられています。
高音質音楽配信はここ2〜3年の間に出てきた新しい流れで、PCオーディオという新しい再生方法と合わせて、ピュアオーディオを求める人達が待ち望んでいたものです。

意外かもしれませんが、この流れはiPodなどの携帯オーディオから始まったと言えます。
今までCDなど光ディスクの場合、デジタルと言いながらも実は信号劣化が起きており、耳の良い人達からはデジタルになって音が悪くなったと指摘されていました。

CDとCDPlayer2とAmplifer1
(デジタルになって音が悪くなったという話の流れで載せるには勿体無い高級CDプレイヤーが写っていますが…)

この大きな原因としてCDを読み取る際の読み取りエラーがあります。音楽の場合にはリアルタイムに再生しなければならないので、ディスクの読み取りエラーがあっても読み直さず、補間しながら音を鳴らします。当然ながら元通りの音にはならず、音質劣化を引き起こす原因になっていました。

これがiPodあたりからの携帯オーディオでは、基本的にメモリーにデータが保存されるので読み取りエラーが起きません。そこで、CDの読み取りエラーが気になっていた人達に、携帯オーディオを利用した音質向上という手法が利用され始めたのでした。
※ ただしCDから音楽を取り込む際、読み取りエラーは読み直す設定にする事と、可逆圧縮やリニアPCMなど音質劣化が無いフォーマットで取り込むことが必須条件です。

現在では、PCに高性能なUSBオーディオを接続して音楽を楽しむ世界が構築されつつあり、スーパーオーディオCD(SACD)と同レベルの音質を楽しめるようになってきたのでした。

ONKYO WAVIO SE-U33GX
(写真はONKYOのエントリーモデルSE-U33GX。USB音源で24bit/96kHzの世界が身近になりました。)

SACDが音質に定評ありながらも普及しなかった原因は、ハードウエアを一式揃えると高額になってしまうことがあったように思います。SACDプレイヤー、アンプ、スピーカー…、これらを買い揃えると簡単に10万円を超えてしまいます。
オーディオが流行っていた時代であればともかく、全てが安くなっている現代において、広く受け入れられるシステムではなかったように思います。

PCオーディオの場合もPCの価格を考えると安くはありませんが、2010年現在、ほぼ1家に1台PCが普及していますので、PC以外を買い揃えると考えれば比較的安く済みます。
最低限、24bit/96kHzに対応したUSBオーディオとヘッドフォンを揃えれば楽しめるようになります。SACDを揃える金額の一つ下の桁で高音質の世界を体験出来るようになったと言えます。
(そしてアンプやスピーカーを買い足すことで、またUSB音源を買い換えることで、一つ一つステップアップが可能です)

冒頭の記事で紹介されていますIsland Soundではバイノーラル方式の音源を高音質配信しています。
砂浜に繰り返し押し寄せる波が、砕けながら砂に消えてゆく様子を、それこそ泡の一つ一つまで堪能させてくれる。…と言ったら大袈裟かもしれませんが、ヘッドフォンで聞くのに最高の音源です。環境をお持ちの方は、このサイトにある自然音を聴いてみて下さい。


犬の遠吠え
(写真 さだまさしが「私は犬に叱られた」という歌で、負け犬じゃなく負け人と言えと犬に叱られたと歌っていました)

しかし例えプロ相手でも負けると悔しいですね。
別に録音は勝負の世界ではないですし、プロ相手におこがましい話であります。しかし、少なくとも自分が納得できる録音が録れるようになりたいものです。
当ブログでも、もっと良い音で録れれば説明が出来るのに、というお話のネタも幾つかあるだけに、少しずつでも腕を上げたいと思います。
今後とも皆さんに当ブログを見に来て頂けると、そして音について感心を持って頂けると幸いです。





究極の自然音 八重山:Island Sound
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自分で出来る周波数特性測定

皆さんはサッカー日本代表の試合はご覧になられたでしょうか?
私は以前はサッカー中継を見なかったのですが、オシム監督の頃から日本代表の試合が面白くなり、見るようになりました。
今年のワールドカップ、そしてそれ以降、ザッケローニ監督を得て日本代表がどんどんレベルアップしています。さらに新しい才能が出てくるのを見るのは本当に楽しいものです。

サッカー競技場の画像

サッカーに限らず近年のスポーツでは若くして高いレベルの選手が出現する事があり、この一因にインターネットが挙げられています。若い頃から世界中の情報に触れ、世界の高いレベルを見ながら成長するから、プロになった時点で既に高い技術を持っているとの事です。

そして音の世界でもインターネットを活用すると、昔とは違う、個人でも高いレベルで色々な事が出来るようになりました。
そこでまず今回は信号を測定・分析したり、作成(発生)するアプリケーションをご紹介します。


■ WaveSpectra (周波数分析ソフト)
PCで音を分析するときの定番アプリケーションで、当ブログの作成にも使用しています。
また外部マイクの音をWaveSpectraで分析すると、色々な音を分析し、その場で客観的に見ることが出来ます。

(画像) WaveSpectraの画像
Wave Spectraの画像

上の画像は、イヤホンでサイン波を鳴らした音をマイクロホンで録り、Wave Spectraで分析した様子です。
厳密に言うと、上の画像の測定では測定条件(イヤホンとマイクの設置方法、スイープ速度、その他)がいい加減なので精度に問題がありますが、それでも手軽にイヤホンの大体の傾向を見ることが出来ます。

この他にも、自分の声を周波数分析して見るとフォルマント(倍音)成分の出方が感覚的に分かるようになりますし、通常は聞き取れない屋内と屋外による暗騒音の違いといったものも目で見ることが出来ます。


 WaveSpectraの入手先はこちらです。
  (1) 作者のページはこちら
  (2) Vectorからダウンロードしたい方はこちら



■ WaveGene (テスト信号発生ソフト)
PCでテスト信号を発生させたいときに使用するソフトです。
上記WaveSpectraと組み合わせることで、より効果を発揮します。

(画像) WaveGeneの画像
WaveGeneの画像

Waveファイルにも出力できるので、PCを持ち歩けなくても、CDに焼いたり、iPodやWalkman等の携帯オーディオに入れて持ち歩くことが出来、例えばカーオーディオのテストなど、ちょっとしたオーディオ装置の検証に役立ちます。


 WaveGeneの入手先はこちらです。
  (1) 作者のページはこちら
  (2) Vectorからダウンロードしたい場合はこちら




そして上記の二つのソフトを組み合わせると、手軽にこんな事が出来ます。
この動画は、PC(WaveGene)>USB音源>被測定イヤホン>音>マイクロホン>USB音源>PC(WaveSpectra)、という構成で二つの異なるイヤホンを測定した様子です。

(動画) 周波数特性の測定

これらのアプリケーションを用いてみると、周波数特性と音楽の聞こえ方の関係が感覚で分かるようになってくると思います。
音響装置を評価するうえで周波数特性は基本部分ですので、ある程度の感覚を養っておくと何かと役に立ちます。
例えばイヤホンやヘッドホン、スピーカーなどを購入する際に、その装置で自分の好きな音楽が楽しめるのかどうか、また普段自分がどの辺りを聞いているかが分かるようになります。

また、WaveSpectraのような周波数分析(FFT)ソフトは、自分で作ろうとすると少々高度な数学の知識が必要になります。この難しいところを省いて、高度な周波数分析を手軽に利用できるのは、実はとても有難いことです。意味が分からなくても触って遊んでおかないと、もったいないぐらいの勢いです。
(この有益なアプリケーションを無料で提供して下さる作者様に、大変感謝いたします)


さて、ここまで書いておきながら何ですが、数字に縛られ過ぎない事も大切です。周波数特性や歪率は音質の全てではなく、一面に過ぎません。
他にも位相のずれや共振などがあり、違う測定をしたり、そして音は最終的に耳で聞いてチェックするものです。

海中の画像「透明な音の景色」

実際に音を耳で確認し、多角的に分析しながら作り込まれたオーディオ装置は、長時間聞いても疲れ難く、静かで透明な音の景色を見せてくれます。ただ、パッと聞いた感じでは自然な音ほどインパクトが無いので、なかなか評価され難いのが現実でした。
しかし、最近ではインターネットのお陰かアマチュアのレベルが上がりつつあります。また楽器を演奏する人も増えていて、彼らは音について聞いて分かる感性を持っています。

才能ある若者と出会うのはとても嬉しいもので、未来が明るく感じます。しかし、それと同時に既に若者でない自分に焦りも覚えます。
折角、無料で使える高度な道具がありますので、この機会に使ってみて、私達も若者に負けないように、少しずつ感覚を養ってみるのは如何でしょうか。




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おじいちゃんと電気自動車 〜 音の回析 〜

今年は三菱自動車のi-MiEVや日産のリーフなど、一般向けに電気自動車の販売が開始され、新しい時代を予感させます。
ここで電気自動車に期待しているのがカーオーディオの環境改善です。

カーオーディオと言うと、大型のウーハーを沢山並べ、ドンドコと低音が車外にまで聞こえてくる光景を連想する方が多いと思います。しかし、そんな派手な方向ばかりでなく、ピュアオーディオという世界も存在し、そんな地味な方向性において期待しています。

自動車の画像

そもそもピュアオーディオには視聴環境が「静か」であることが、音質改善の一つの要素となります。この点においてエンジンやタイヤという騒音源を持つ自動車は、残念ながらピュアオーディオに向いていません。しかしこれが電気自動車になるとエンジンが無くなり、静かなモーターへと変わるので、音楽的な問題が一つ解決されます。


カーオーディオでもう一つ問題になるのが、レイアウトの制限です。スピーカーを設置できる場所と角度が制限されるので、スピーカーが本来の性能を発揮できないのです。
さてさて、前置きが長くなってしまいましたが、そんな今回のお話はスピーカーに角度がある場合に生じる「音の回析」についてです。

音の回析というと難しく感じますが、ようは音が回り込む現象です。
音には周波数が低くなるほどに回り込み易くなる性質があり、逆に周波数が高くなるほどに直進するようになります。言葉で説明すると分かり難いので、次の動画を見てみてください。

(動画) スピーカーの角度と特性

この動画では、ホワイトノイズを出しながらスピーカーの向きを360°回転させ、その音声を周波数分析して見せています。スピーカーとカメラの距離は1.5m前後です。
周波数分析したグラフの変化から、スピーカーが正面を向いている時に対して、45°横を向いた場合には2k〜3kHzの音は10dB程度減衰し、10kHz近辺では15dB程度も減衰しています。

(画像) 正面(黒線)と斜め45°(赤線)の比較
正面と斜め45°を比較したグラフ

音声は回り込むので横や後ろを向いても音は聞こえますが、こもって聞こえるようになります。このようなセッティングのまま聞こえないからと音量を上げると、聞き取れるようになる前に、うるさい状態になってしまう事があります。

これは身近なところではテレビでも起きている現象です。テレビは映像が優先され、音質は後回しにされる商品特性を持ちます。(逆に音が良くても映像が悪いテレビでは意味が無いですから、しょうがないのですが)

もし、おじいちゃんや、おばあちゃんがテレビのボリュームをうるさいぐらいに大きくして聞いていたら、テレビのスピーカーがどこに付いているかを見てみて下さい。側面や背後にスピーカーが設置されている場合には、外付けのスピーカーを用意して、正面の方向に設置してあげるだけで、音声を聞き取り易くなります。

小型ブラウン管テレビの画像
(アドフォクスにあるブラウン管テレビのスピーカーは側面でも背後でもなく、底にありました)


おじいちゃん、おばあちゃんと言えば、小さい頃に「ちゃんと相手の方を向いて話しなさい」と叱られたことが無いでしょうか。
そっぽを向いて話しても、音は回り込むので相手には聞こえます。しかし聞き取り難い、くぐもった音質になります。
礼儀の点だけでなく、聞き取り易さの点からも、相手の方を向いて話すのが良いという事ですね。

そんな訳で、テレビや車のスピーカーがそっぽを向いていると、おじいちゃん、おばあちゃんから言われた言葉を思い出してしまいます。




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